- 公益財団法人 島田美術館
- 〒860-0073
熊本県熊本市西区島崎4-5-28
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思い出の甲斐大策展 三回忌によせて
- 会期
- 2021年6月3日(木)~13日(日)
- 観覧料
- 無料
- 概要
- 甲斐大策展に寄せて
初めてお会いしたのが1980年代後半、改装前の島田美術館ギャラリーで開かれた個展のときでした。私は文化部の一記者でした。
強烈な第一印象でした。作風こそ異国、それもアフガニスタンと周縁部に暮らす人々や荒漠たる自然を描いたものでしたが、より記憶に残ったのはご本人の風貌であり衣装でした。
大柄な体躯と精悍で浅黒い顔、自信に満ちた話しぶり。そして手首や指に付けたアクセサリー類は、体を動かすたびにカラカラと金属音を響かせました。作品に描かれたかの国の人たちが身に着けている飾りものです。
その後、県境をまたいで数年に一度、必ずこの場所で個展を開いてきました。そして時に、美術館本館で、自作ではなく、アフガンの遺物や装飾品などコレクションの数々を、ふだんは日本の古美術品の入った本館のケースの中に並べました。それは、世界の東の端で花開いた日本の近世、江戸期を中心とした文化文明が、その源へとたどる展観のようにも思えました。それがアフガン地域であり、その地は現代もなお近代以前と変わらぬ姿で存在していることを伝えていたのでした。
甲斐さんはきっと、居心地のよさとしてのこの美術館と、近代やそれ以前の文物を理解し語り合える同輩としての初代館長島田真祐とがお気に入りだったに違いありません。
その島田が2017年11月末に亡くなったとき、甲斐さんは通夜も葬儀も参列しました。連日福岡の自宅から通って…。しかし甲斐さんは両日とも、ずっと会場の外でたばこをくわえ、独特の黒い上下、つば広の黒いハット姿で、漏れ聞こえる弔辞やあいさつを聴いていました。尋ねたら「いやあここで聞こえるけん、中に入らんでもよか」。“同志”を亡くした寂しさのようなものを、その立ち姿に感じたものです。
そしてほぼ2週間後の年の暮れ、前から決まっていた個展を、ここで開きました。そのなかにはわずかな時間に描いたという島田への「オマージュ」(鎮魂)作品も交じっていました。
それから1年とちょっとが経った19年1月、甲斐さんは福岡・福間町の自宅で突然倒れ亡くなったのです。享年81でした。
あれから丸2年が過ぎ、ゆかりの場所で「三回忌展」を開こうということになりました。初期から晩年までの油絵、ガラス絵など、当館所蔵のものを含めて30点ほどを並べました。甲斐さん独自の世界をご堪能ください。
満州に生まれ、大陸を行き来した甲斐さんは、ある意味放浪の人でもありました。さすらい人はフランス語でヴァガボンドVagabond。おお、宮本武蔵を描いた井上雄彦の代表的漫画が「ヴァガボンド」だったではないですか。と思えば、甲斐さんが武蔵ゆかりのこの地に行き着いたのは必然だったのかもしれません。
2021年6月 島田美術館長 松下純一郎
※火・水休み
- プロフィール
- 甲斐大策(かい・だいさく)
画家・作家。1937年、中国・大連市生まれ。早大文学部東洋史学科卒。1969年以後今日まで旅、民族文化収集、絵画、レポート、小説等を通して、アフガニスタンと周辺地域に深くかかわる。
著作に『生命の風物語』『シャリマール』『神・泥・人』『アジア回廊』『餃子ロード』『聖愚者の物語』(石風社)がある。
2019年1月15日没。