時を経た着物や帯に新たな命を吹き込み、日々暮らしの中で使えるものに生まれ変わらせるのが私の仕事です。年代を経した着物や帯には、「歴史」の重みと何ものにもかえがたい「美」が存在し、そのような和服から生まれたバッグや小物は、いつも私たちに美をもの語ってくれます。
作品には複数の言語で、ある「言葉」が縫い込んであります。文字は全て手縫いで、私が体験してきたさまざまな文化が映し出されています。私はべトナムで生まれ、幼い時期をフランスですごし、その後オーストラリアで成人しました。そして、今、着物と帯を生み出した日本の豊かな文化の中で暮らしています」
2015年1月、島田アート・ギャラリーで開かれた個展のタイトルを「トランスフォーメーション シリーズ1(Trangsformation: Series 1)」に続くシリーズ2。作品を創るに当たり、大いに触発されたのは、宮本武蔵とその著作「五輪の書」でした。個展では、武蔵の「地」「水」「火」「風」「空」の五つの書(墨跡)も展示されます。中でも「空」の思想はこの個展の中核を成すものです。私は、人が体験する「空」を肉体、情緒、思考、そして、霊性の四つに分け、このシリーズ中で探究していきたいと考えています。中でも最後の「霊性」としての「空」は、武蔵が著作でふれているものです。
島田アート・ギャラリーには武蔵とその弟子たちの作品が所蔵されています。それらを実際に目にする喜びと、かつ隣接する空間に自分の作品を展示できる栄誉に、私の身は打ち震えています。
テーマ「トランスフォーメーション(Trangsformation)」は、物事の「変化(Change)」を意味しいています。自然の中で目にする変化、人生において体験する変化、あるものが別のものに姿を変えること。年代を経た帯が新たなバッグに生まれ変わることもその一つなのです。成長と変化は人生の一大事です。また、武蔵が教えの中で述べている修行の重要な要素でもあります。
「トラン(Trang)」という名は、生まれ故郷ナー・トラン(Nha Trang)に因んで両親がつけました。なお、「Trang」はベトナムの言葉で「花、Ixora Coccinea, Flame of the Woods 森の炎)を意味しています。私の作品が、皆様に何らかの閃きと絆への思いを与え、そして、温かい心の共有につながれば、これに勝る幸せはありません。
Trang Nguyen
Trang Nguyen ●プロフィール
べトナム、ナー・トランに生まれ、小学校時代をパリですごす。11歳でオーストラリア、ブリズベーンに移り、グリフィス大学で近代アジア研究の学士号を取得、その後、シドニー、マクアイアリー大学にて応用言語学の博士課程を修了。クィーンズランド州トゥーンバ市と大阪府・高槻市との姉妹都市提携によって来日、英語教育に携わる。その後、東京、千葉の大学において英語、ベトナム語、フランス語の授業を担当。2011年3月、東日本大震災の後、熊本に移り現在に至る。2006年よりビンテージ帯、着物を使った織物芸術に取り組む。
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